Reexamination Of Japanese “Southern” Experience

from The 1920s To 1950s

日本人の「南方」経験の再検討

-グローバル時代の新しい歴史像の構築に向けて-

『日本人の「南方」経験の再検討―グローバル化時代の新しい歴史像の構築にむけて― 報告・論文集』研究の概要

石川徳幸(日本大学 法学部 新聞学科 准教授)

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 グローバル化に関する議論は、ともすれば現況の経済分野における国際関係に関心が集まるきらいがあるが、本質的な議論を行うためには、歴史的な文脈や複雑な地政学的影響による社会変動を把握することが肝要である。とりわけ、日本と様々な歴史的かかわりを持つ国々や地域との関係において、歴史的理解を前提とする人文・社会科学的な学術的知見の蓄積は、グローバル社会に関する議論の土台として欠かせないものである。こうした視座に立ち、本研究はグロ-バル化社会に寄与する歴史像を構築することを最終的な目標に定めながら、日本人の「南方」経験の歴史的意義について再検討するものである。

 研究の対象地域は、戦前期日本において「南方」(ないしは「南洋」)と呼称された地域を範囲とし、とくに戦前の早い時期から日本人社会の形成がみられ、戦後においても日系人社会が発達したインドネシアを中心に扱う。日本とインドネシアの関係をケーススタディとすることで、戦前期の日本で言うところの外地(「南方」)と内地(日本)をめぐる「還流」の歴史的意義を検討する。具体的には、貿易という「モノ」の交流だけでなく、「ヒト」の交流という多様で重層的な関わりについて考察する。いわゆる戦前期におこなわれた南進政策にともなう国策移民だけではなく、自由移民や一時的な出稼ぎ労働者とその推奨者、文学者、ジャ-ナリスト、2世・3世の人々、写真家などの人々の営為の記録をもとに、これらの人々が果たした外地における多様性のある日本人社会の形成過程と、それらが内地(日本)との関係において果たした役割を、戦前・戦時・戦後の様々な立場における人びとの経験から明らかにする。対象とする時期としては、「南方」への移動が本格化した大正時代(1920年代)から、戦後に残留兵を中心とした日系インドネシア人のコミュニティが形成された1950年代を扱う。

 研究の方法は、日本とインドネシアの関係性を軸に当時の人々の活動を新史料に基づいて再検討するとともに、日本「内地」における各種政策的な取り組みや、職業指導所、南洋庁や台湾総督府といった関係機関の役割についての知見をふまえて、歴史的に位置付けて考察を深めていくものである。研究分担者および研究協力者が取り組む具体的な問いは以下のとおり。

① 戦前期の日本において「南方」地域への出稼ぎや移民は、いかにして拡大したのか。「南方」における日本人コミュニティの形成過程や、日本内地における斡旋事業を明らかにする。

② 戦時期の日本は「南方」地域において、いかなる「文化工作」を実践したのか。いわゆる「文化工作」の実態を明らかにし、現地にもたらした影響とともに、「文化工作」に携わった日本人の戦後の活動への影響を詳らかにする。

③ 戦後の日本と「南方」地域の関係において、日系人コミュニティが果たした役割はいかなるものであったのか。戦前からの移民や残留兵によって形成された「南方」におけるコミュニティの実態を明らかにし、現地における当該コミュニティの位置づけと日本との関係をどのように維持したのか(ないしは維持し得なかったのか)を詳らかにする。

 これらの分析を通して、「還流」をキーワードとした中・長期的な歴史的動態を把握し、その歴史的意義を解明することで、グローバル時代に合った歴史像の構築に寄与することを期す。

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