ソコロワ山下聖美(日本大学 芸術学部 文芸学科 教授)
本書は、令和2年度日本大学学術研究助成金(総合研究)「日本人の『南方』経験の再検討―グローバル化時代の新しい歴史像の構築にむけて―」の報告・論文集として作成した。共同研究者各自の専門分野の論文、史料紹介などで構成されており、研究の舞台であるインドネシアにおいても広く情報収集を行う目的から、一部についてはインドネシア語訳を付している。
こうして本書が一つのかたちになったことに、まずは大きな安堵の感を覚える。それほどまでに、今年度の研究活動は多難を極めるものであった。
南方への「移動」をテーマとする本研究においては、インドネシア国立図書館での第一次史料の調査や、現地フィールドワーク、日本とインドネシアの研究者が集っての研究報告や情報交換のシンポジウムなどを計画しており、グローバルな視点に立ち、国際間の行き来を伴う活動を目指していた。しかし、周知の通り、新型コロナウィルス感染の世界的流行により、国際間のみならず国内においても「移動」が制限される中、大きく舵取りの変更をせざるを得なかった。
日本国内における共同研究者同士の対面もままならず、Zoomにおける研究会を重ねた。いつしかこのミーティングにはインドネシアの研究者も参加するようになり、Zoomを通して、かろうじて共同研究が遂行できたことは幸いであった。当初予定していたものとはほど遠い成果ではあったが、励まし合い、共に苦難の道を歩んだ経験により、共同研究者間の連携がさらに深まったと確信している。
まだまだ苦難の道のりは終わりそうにないが、それでも本書をまとめ上げたことだけが、来年度に向けての励みである。逆境の中で生み出された本書を広く世に放ち、多くの意見を乞い、来年度の研究の糧としていきたい。
最後に、このような状況の中で、研究費使用について様々な相談にのって頂き、柔軟に対応をして下さいました日本大学研究推進課、及び日本大学芸術学部研究事務課には深く感謝申し上げます。